SIerを選ぶときは、会社の規模や「元請け」という呼び方だけで決めず、顧客業界、担当工程、案件内で持つ責任を見ます。SIerの仕事はプログラムを書く工程だけではありません。顧客の構想を要件へ落とし、設計・構築し、稼働後まで支える役割を含みます。ソフトウェア・通信業界の大分類の中でも、顧客ごとのシステム構築を軸に求人を探す人向けの詳細業界です。

同じ会社でも、金融システムの要件定義と、製造業向けシステムの運用では必要な知識も顧客との関わり方も違います。転職先を比べる単位は「SIerかどうか」ではなく、応募職種がどの顧客に対して、どの工程を担うかです。

SIサービスは、企画から構築までを一括して届ける仕事

SIサービスは、企画・コンサルティングや要求定義を含め、システム構築を一括して提供する業務として定義されています。基盤システムを担うSEの公的な職業解説でも、要件定義、設計、構築、稼働後の運用対応までが仕事内容の例に含まれます。

ただし、一人が全工程を担当するという意味ではありません。営業、コンサルタント、プロジェクトマネージャー、アプリケーションエンジニア、基盤エンジニア、運用担当などが分担します。求人票では、会社が持つ工程の広さと、自分が採用される職種の担当範囲を分けて読みましょう。

| 工程 | 仕事の焦点 | 転職前に見たい経験 | | --- | --- | --- | | 企画・構想 | 顧客の業務課題と予算・優先順位を、システムの計画へつなぐ | 顧客業務の理解、提案、関係者との合意形成 | | 要件定義 | 必要な機能、性能、運用条件を決める | 顧客折衝、要件の文章化、優先順位付け | | 設計・構築 | 要件を設計へ落とし、開発や基盤構築を進める | 技術設計、品質管理、チーム内の役割分担 | | 運用・保守 | 稼働を支え、障害や変更へ対応する | 監視、復旧、改善、利用部門との調整 |

顧客業界が変われば、学ぶ業務と守る条件が変わる

2024年度の単独決算を基準にした会員企業の集計では、回答300社のうち、主たる業務をSIサービスとした会社は94社、ソフトウェア開発とした会社は138社でした。情報サービス売上高に占めるSIサービスの割合は49.4%です。少なくともこの回答企業群では、情報サービス企業の仕事をすべてSIとは呼べない一方、情報サービス売上高の約半分をSIサービスが占めます。

売上高が極端に大きい5社を除いた詳細編295社のうち、SIサービス型92社では、取引先別売上高が次のように分かれています。これは会員回答企業の構成であり、日本の全SIerの市場シェアではありません。

| 取引先 | SIサービス型92社の売上構成 | | --- | ---: | | 金融 | 30.2% | | 製造 | 19.5% | | サービス | 15.9% | | 官公庁・自治体 | 11.3% |

上の比率から個別企業の得意分野までは判断できません。応募先では、会社全体の主要顧客と、自分が配属される部門の案件例を分けて見ます。

「何次請けか」より、案件内で持つ責任を聞く

公開統計だけでは、一次請けと上流工程、二次請け以降と開発・テストを対応づけられません。商流の呼び方から担当工程を推測せず、配属を想定する案件ごとに、会議への参加範囲、成果物、意思決定の範囲を確認します。

面接では「元請け比率」だけを聞くより、配属を想定する案件について次を聞く方が仕事内容をつかめます。

  • 要件を決める会議に、自社の担当者が参加するか
  • 設計、開発、テスト、運用のうち、自社が成果責任を持つ範囲はどこか
  • 顧客からの変更依頼を誰が受け、納期と費用を誰が調整するか
  • 協力会社へ依頼する業務と、自社に残す技術・管理業務は何か
  • 案件が終わった後、次の配属をどのように決めるか

呼び方ではなく、会議へ参加する立場、成果物、意思決定の範囲を聞けば、積める経験を具体的に比べられます。

給与データは年収レンジに作り替えない

詳細編295社全体の30歳の給与・賞与集計には、一部推計を含む単純平均として次の値があります。

| 指標 | 集計値 | この値が示さないもの | | --- | ---: | --- | | 30歳の月間平均給与 | 300,646円 | SIサービス型92社だけの平均、個別企業の平均年間給与 | | 30歳の年間平均賞与 | 1,292,497円 | 応募職種の提示額、賞与を含む年収レンジ |

30歳の月間平均給与を12倍して30歳の年間平均賞与を足しても、個別企業の平均年収や求人の下限・上限にはなりません。会社を比べるときは、有価証券報告書などにある提出会社の平均年間給与と、公式求人にある職種・勤務地別の提示額を別の表で読みます。持株会社の数字を事業会社の社員給与として扱わないことも必要です。

希望年収を決める場面では、業界の一つの平均より、応募職種の等級、勤務地、固定残業代の有無、賞与の算定条件をそろえて比べる方が実用的です。数字が公開されていない項目は、他社や前年の値で補わず「情報なし」として残します。

顧客業務を理解し、複数の関係者をつなぐ仕事が向いている人

顧客の言葉を技術要件へ変える仕事に関心があり、開発者だけでなく利用部門や協力会社とも調整したい人にはSIerが向いています。特定の技術だけで完結せず、顧客業務、品質、納期、運用を同時に考える場面があるからです。

複数の業界や案件を経験したい人、要件定義やプロジェクト管理へ担当を広げたい人は、それをSIer一般の機会とはみなしません。面接で案件変更の頻度、育成制度、工程移行の実績を聞き、希望する経験を得られる応募先かを個社ごとに判断します。

一つの自社サービスを長く育てたい人は、別業界も比べる

利用者の反応を一つの製品へ継続して反映し、開発の優先順位を自社で決めたい人は、ソフトウェア・SaaSやインターネットサービスの会社も比べる価値があります。SIerにも自社製品を持つ会社はありますが、応募部門が顧客ごとの構築を中心とするなら、望む働き方とずれる可能性があります。

社外の顧客との調整より、自社の事業部門と一つのサービスへ集中したい人も、事業会社のIT部門を含めて候補を広げた方がよいでしょう。反対に、顧客ごとに異なる業務を学び、プロジェクト単位で成果を出したい人にはSIerが選択肢になります。

商流、転職支援、事業会社への移動を別の角度から確認する

案件内の立場をさらに掘り下げるなら、多重下請け構造と担当工程の見分け方で、会社の呼び方と実務を切り離して確認できます。エージェント選びまで進んだ人は、SIer転職向けエージェント比較で、保有求人だけでなく担当者へ聞く項目をそろえます。

事業会社のIT部門と迷っている場合は、SIerから事業会社へ移る前に確認したい後悔の条件を使い、顧客との距離、担当範囲、異動後の責任を比べます。どの導線でも、会社名ではなく応募する法人、配属候補の事業、顧客業界、担当工程を同じ単位にそろえることが前提です。

企業を比べるときは、売上や知名度で順位付けせず、提出会社と採用主体、グループ内の役割、顧客構成、公式求人の提示給与を個社ごとに分けて確認します。