まるみワークス編集部でITキャリアを担当しているマナです。本記事は経済産業省と中小企業庁の公開資料を編集部が調査して作成しています。「SIerは辞める人が多い」と一括りにせず、多重下請け構造が仕事内容やキャリアにどう影響し得るかを整理します。

多重下請け構造とは

多重下請け構造とは、ユーザー企業がシステム開発を元請けのSIerへ発注し、元請けが業務の一部を別の会社へ再委託し、さらにその先へ再委託される階層的な取引構造です。経済産業省の報告書は、ユーザー企業、元請けベンダー、下請けベンダーが複数段に連なる受託開発の構造を示しています[1]

「下請け」という言葉だけで違法または劣悪と決まるわけではありません。大規模システムでは、必要な専門性や人員を複数企業で補う合理性があります。問題になりやすいのは、階層が深くなることで情報、裁量、対価、責任の配分が見えにくくなる場合です。

なぜ形成されたのか

経済産業省の調査は、大口ユーザーの発注が大手企業へ偏り、中堅・中小企業が大手の下請け・孫請けとして小規模な業務を担うようになった経緯を説明しています[1]。中小企業白書は、プロジェクトの人手が不足すると再委託・再々委託が発生し、それが多重下請け構造につながると整理しています[3]

つまり、発注側にとっては契約窓口をまとめたい事情があり、受注側には案件規模に応じて外部人材を確保したい事情があります。長く続いた受託開発と人月を軸とする商流が、企業間の階層を固定しやすくしたと読めます[4]

働く人に起こり得る影響

顧客の目的が見えにくい

階層が深いほど、利用部門との会話が上位会社を経由し、担当者が要件の背景や事業上の目的に触れにくくなる場合があります。その結果、仕様どおりに作業する力は伸びても、課題発見や提案の経験を積みにくいことがあります。これは会社名だけでなく、案件ごとの商流と担当工程で変わります。

公開されている一例として、LIGの採用広報に掲載された社員インタビューでは、本人が二次請け・三次請け中心の客先常駐と一次請けの双方を経験し、一次請けではエンドクライアントと直接調整できることに仕事の実感を持ちやすかったと振り返っています[5]。一方、多重請けの現場にも複数の現場を経験できる良さがあったと述べています[5]。これは一人の回顧であり、転職先企業の採用広報に掲載された内容でもあるため、業界全体の傾向を証明するものではありません。

担当工程が固定されやすい

契約範囲が限定される現場では、テストや運用など一部工程を長く担当することがあります。一方、二次請け以降でも設計や顧客折衝を担う企業はあるため、「何次請けか」だけで仕事内容を断定できません。求人票では、取引階層と一緒に担当工程を見る必要があります。

処遇と仕事内容への納得感に差が出る

経済産業省の資料は、中小規模企業では元請け比率が低い企業群があり、企業規模による年収と満足度の隔たり、給与・報酬への評価が改善していない状況を課題として示しています[2]。古い調査を現在の全企業にそのまま当てはめることはできませんが、商流と処遇を確認する必要性を示す資料にはなります。

変革や内製化との距離が開くことがある

DXレポートは、固定的な多重下請け型から、企業同士が価値に応じてつながるネットワーク型への変化を示しています[4]。ユーザー企業の内製化やクラウドサービス活用が進むなか、要件を受け取って作るだけでなく、事業課題を理解し提案できる力が重視されやすくなっています。

「辞める人が多い」とは一括りにできない

今回確認した公的資料には、SIer全体の離職率が他業界より高いと直接示す統計はありませんでした。多重下請け、長時間労働、低い裁量をひとまとめにして「SIerは辞める人が多い」と断定するのは避けるべきです。

一方で、顧客から遠い、担当工程が固定される、評価と仕事内容が合わないといった状態は、転職を考える理由になり得ます。大切なのは業界名ではなく、自分がいる案件の構造と、次に得たい経験の差を言葉にすることです。

求人・面接で確認したい質問

  • エンドユーザーとの直接取引と再委託案件の割合
  • 配属予定案件で自社が担う契約上の立場
  • 要件定義、設計、開発、テスト、運用の担当範囲
  • 顧客や上位会社との打ち合わせに参加できるか
  • プロジェクト終了後の配属と待機時の扱い
  • 技術評価とマネジメント評価のキャリアパス
  • 協力会社との役割分担、追加要件や手戻りの管理方法

中小企業白書には、元請け企業が仕様を早期に明確化し、追加要件を抑え、パートナー企業と開発手順を共有して手戻りを減らした事例もあります[3]。多重下請けであることだけでなく、取引を改善する仕組みがあるかを見る視点も必要です。

転職先の比較を始める方は、SIer向け転職エージェントの公開情報比較も参考にしてください。登録前に「元請け比率」「担当工程」「顧客との距離」を希望条件として整理すると、求人の違いを説明しやすくなります。

まとめ

SIerの多重下請け構造は、大規模受託開発を複数企業で分担する過程で形成されてきました[1,3]。働き方への影響は、取引階層、担当工程、顧客との距離、評価制度によって異なります。業界全体の評判で判断せず、自分が担当する仕事と次に積みたい経験を具体的に確認してください。